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獏さんがゆく


図書館から借りてきている山之口獏さん(1903~1963)の詩集。
ゆっくり繰り返し読んでいます。

詩のために捧げた人生。
「書かずにはいられない」という気持ちに、なによりも忠実に生きた人。

「人間は生きていると、あっちもこっちもかゆいのである。
生活を見てもそうなのであって、かゆかったり痛かったり、痛がゆかったりで、
なんとかしなくてはならぬことばかりである。」
「いわば、書かずにはいられなくなって書き出したのがぼくの詩で、
かゆいところを掻き出したのが病みつきになったみたいなものである。」
(「詩とはなにか」より)

未来の芸術家を夢見て沖縄から上京し、それから20年近くも土管や公園や
友人宅などで眠る日々。 
生活はいつも苦しかったけれど、「精神の貴族」とよばれた見事な心意気で
周りの多くの人たちをひきつけ、生涯の友人となった金子光晴や佐藤春夫たちからの
援助も得て、59年の生涯を詩にどっぷりとつかって送ったのでした。

手元においておきたいなあ、と思って本屋さんをのぞいたら
獏さん自身の詩集はなかったけれど、
同じく詩人の茨木のり子さんが書いた 『獏さんがゆく』 (童話屋)を見つけました。
獏さんがゆく_f0160346_8373641.jpg

手のひらサイズの可愛らしい本。 装丁も綺麗。

彼の生涯を、時代をおって、その頃書かれた詩を織り交ぜつつたどっています。
獏さんと親交があった著者の茨木さん自身が詩人ということもあり、
平易な言葉であざやかに、やさしい眼差しでかかれていて、そのエピソードとあいまって
まるで創作童話を読んでいるような感覚になります。

直感的に即興でつくったようにみえながら、実は一篇の詩を生み出すのに
200枚も300枚もの原稿用紙を破って推敲をかさねていたという話は、
ずいぶん前にきいた忌野清志郎の詞に対する姿勢とダブったり。

もうしばらく、ゆっくり読もう。


『座蒲団』

土の上には床がある
床の上には畳がある
畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽といふ
楽の上にはなんにもないのであらうか
どうぞおしきなさいとすすめられて
楽に坐ったさびしさよ
土の世界をはるかにみおろしてゐるやうに
住み馴れぬ世界がさびしいよ


『世はさまざま』

人は米を食ってゐる
ぼくの名とおなじ名の
獏といふ獣は
夢を食ふといふ
羊は紙も食ひ
南京虫は血を吸ひにくる
人にはまた
人を食ひに来る人や人を食ひに出掛ける人もある
さうかとおもふと地球には
まあ木という木がある
木としての器量はよくないが詩人みたいな木なんだ
いつも墓場に立ってゐて
そこに来ては泣きくづれる
かなしい声や涙で育つといふ
まあ木といふ風変わりな木もある。
by hey_leroy | 2009-07-15 22:42 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


by hey_leroy