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『ロッパの悲食記』と里芋の味噌汁


昨日、古本屋でみつけた 『ロッパの悲食記』 (古川緑波・著 ちくま文庫版)。
通勤の往きかえりで読み終えてしまった。
ロッパといえば、「ロッパ昭和日記」という、それはブアツイ4冊組くらいの大作が
あるけれど(自分は図書館で1巻目を借りて挫折)、この悲食記だけでも、ずいぶんと
楽しめる。
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戦前戦後、榎本健一と人気を二分して「エノケン・ロッパ」時代を築いた喜劇人、古川ロッパ。
小柄で機敏なアクションが得意なエノケンに対し、大柄で喋りや歌で国民を魅了したロッパ。
ロッパの体格の良さは、その旺盛な旨いものへの欲求から来ているのだということが
良くわかる一冊。

『悲食記』というのは、戦況が悪化して食糧難や空襲の恐怖が深刻化した昭和19年の
ロッパの日記抄を指している。
大人気を誇る一座の長であるからして、一般人よりははるかに良い食生活を送っていたのだが、
だんだんそうも言っていられなくなる過程が細かく書かれている。
にしても、敗戦前年なのに、ヤミ食堂をみつけたり興行主の接待を受けてはビフテキだ
ポークカツレツだジョニーウォーカーだ・・・良くのみ、良く食べること。
読んでいると、食への欲望の強さは、やや幼児的過ぎるのでは?と思うほどだ。
旨いものはいくらでも食べたい、 まずいものは喉を通らないというのだから。
ご馳走にありつけては狂喜し、あてにしていた店が閉まっていたときは落胆して
「涙が出そうな気持。食うものがなくなったとて自殺した奴はいないのかな」 などと
書いている。

そのほか、戦後昭和33年の日記や、食に関する随筆も収録。
戦前と戦後の銀座、浅草などや大阪、京都、名古屋などの店の話など。

マカロンなんて戦前から日本の洋菓子店に並んでいたんだなあ、とか、
いまでも残っている洋食屋や中華料理屋のこととか、面白い。
文藝春秋社の編集者を経て役者になったというインテリでもあるので、
ずいぶんとハイカラな店をあちこち知ってる。 そうとうな大食漢であるけど。
日本食は好まず、珍味系の肴よりもオムレツやとんかつで酒を飲むのを好んだらしい。

自分が一番印象に残ったのは、味噌汁のこと。
ロッパは味噌汁が大好きで、トーストにベーコンの朝食でも、味噌汁は必ずつけたんだそうな。
名古屋や大阪に行ったときに宿で頼むのは、八丁味噌の赤だしに、実(み)は里芋の味噌汁。
しかも、「東京式に小さな里芋をまるごと入れたんでは駄目、短冊に切った奴。
朝食には、その八丁味噌の三杯汁だ」 とのこと。

これが腹を空かした帰りの電車で読んでたらどうにも我慢ができなくなって、
さっそく里芋買って帰りましたとさ。
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赤だしにもしたかったけど、こないだ戴いたばかりの手作り味噌で、お豆感を堪能しながら。
里芋、短冊というかあまり厚すぎない輪切りにしたけど、食感が変わって美味しかった。

あとは、明日の弁当用につくった麻婆ナスやキンピラゴボウなどでの夕餉。
飲み物は、麦茶。

明日は、ひさしぶりに内田百けんの 『百鬼園戦後日記』 を読もう。
こちらも戦後の物資が乏しい時代、日本酒やビールが手に入った、入らないで
一喜一憂するヒャッケン先生の心のさまが赤裸々に綴られている。

もちろん、ロッパさんもヒャッケン先生もただの食いしん坊&呑み助日記ではなく、
戦争が実際どんなことをもたらしたのか、生活者の視点から探ることができる貴重な
記録だと思う。
by hey_leroy | 2010-09-06 23:34 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


by hey_leroy