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読んだもの備忘録。 『銀座復興』など。

川本三郎さんの新刊随筆集 『そして、人生はつづく』 を先日読んで、そこで取り上げられていた本から気になったのを二冊ほど。どちらも読んでから少々日にちが経ちました。

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水上滝太郎の『銀座復興 他三篇』。大正12年の関東大震災で壊滅的被害を受けた銀座。灰に埋もれた街にいち早くトタンと葦簀で小屋を建て、商いを復活させた小料理屋の夫婦と、そこに集う客たちの話。昭和6年に新聞小説として発表されたものが一昨年の震災の後に再び注目され、昨年岩波文庫から発刊となった。

銀座は終わった、もう元通りにはならないと悲観する者。いや、これを機に以前よりさらに大きく発展するのだと前向きに考える者。そして、<復興の魁(さきがけ)は料理にあり。 滋養第一の料理は『はち巻』にある>と書いた紙を店の前に掲げ、ねじり鉢巻きで板場に立つ主人の心意気。

登場する酒場にはモデルがある。今は銀座松屋の裏にある『はち巻岡田』。昔から多くの文士や芝居役者たちが贔屓にし、現在でも旨い肴と酒を(料亭よりは)気軽に楽しめることで人気の店だ。吉田健一や山口瞳らの随筆で、この店の菊正宗や鮟鱇鍋などの魅力について書かれたところを繰り返し読んでは、いつか行ってみたいなぁと思っているのだけど、自分にはまだ敷居が高いような。でも行きたい。

それはさておき。昭和初期に書かれた大衆小説ということで、やや時代がかった物語ではあるけれど、大きな災いのあとの心の持ちようなどは時代が変わっても通じるものがある。だからこそ今回の文庫化につながったのだろう。当時の東京の風俗の記述なども、興味深く読んだ。

表題作の「銀座復興」以外の三篇も読みごたえあり。ある夫婦の日常の暮らしを丁寧に切り取った「果樹」や、関東大震災が近所づきあいにもたらした波紋をちょっとブラックに描いた「遺産」など。いずれも大正後期~昭和初期の作品だけど、今読んでも色褪せない魅力がある。


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もう一冊は諸田玲子の『思い出コロッケ』(2010年 新潮社)。向田邦子へのトリビュート短篇小説集とのこと。諸田さんは時代小説で知られる作家さんらしいのだけど(そちらは読んだことないのです)、20年ぐらい前に向田ドラマの脚本ノベライズの仕事をしたのが小説を書くきっかけになったのだとか。ここに収められた短篇は「コロッケ」「シチュー」「黒豆」など、すべてに食べ物のタイトルが付けられ、年代設定は向田さんが飛行機事故で亡くなった1981年前後になっている。

・・・そんなことを知ったうえで読み始めたのが影響したのか、どうも自分はハマらなかった。80年代当時の世相や流行モノの記述が取ってつけたように唐突に感じられ、ストーリーや登場人物もそれっぽくはあるけど、今ひとつ残らない。「こういう本をつくってみよう」という企画が先行しているような印象を受けてしまう。 「思い出コロッケ」というタイトルも、もちろん向田さんの「思い出トランプ」に倣っのだろうけど、かえってあざとさを増してしまうというか・・・と、やはり事前情報の所為か、辛口になってしまうのでした。悪いというわけではないんだけどねぇ。諸田さんの時代小説は、機会があったら読んでみたいと思いマス。

で、これを読んだ直後にブック○フの100円棚で向田邦子の『男どき女どき』を見つけて、購入。短篇とエッセイが収められた最後の作品集。未読だったので買いました。決して口直しでは・・・いや、否定はすまい。

短篇は「鮒」「ビリケン」「嘘つき卵」「三角波」。

普通に暮らす人たちの心の闇をさりげなく、そして怖く描く。過激な言葉やシーンは登場しないのに、気配にゾッとさせられる。この「さりげない怖さ」が向田邦子の小説の真骨頂なのだなぁと痛感する。
by hey_leroy | 2013-03-12 20:18 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


by hey_leroy