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考現学入門

あぁ、面白い。 なんでもっと早く読まなかったんだろう。

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『考現学入門』 今 和次郎・著  藤森照信・編 (1987年 ちくま文庫)

 今 和次郎(こん わじろう 1888~1973)。 建築学者。風俗学者。
 民俗学の第一人者・柳田国男らと農村・民家の調査を行っていたが、関東大震災を機に、市井の人々の現在の暮らしをひたすら観察・採集する仕事にのめりこみ、考古学に対して「考現学」の旗を掲げる。それによって柳田民俗学からは破門という扱いに。

 研究対象の幅は広く、内容は微細だ。大正末期の「東京の風俗カルチュアの一大中心」であった銀座。震災後特に「貧民窟」の様相を呈していたという本所深川。そして移り住む人々が増えてきた「郊外」の阿佐ヶ谷。この三ヶ所での風俗採集では、路上を歩く人々の性別、年代、職業などはもちろん、和装か洋装か、髪や髭の形はどうか、履物、手袋、帽子、眼鏡などの色や形、素材は・・・など、執拗なほど詳しい調査が行われている。ちなみに大正14年の銀座では女性の和服と洋服の割合は何度調べても99:1であったという。

 ほかにも、「下宿住み学生持物調べ」、「新家庭の品物調査」、「井の頭公園春のピクニック」(どういう人たちが何をしているか)、「井の頭公園自殺場所分布図」(!)、「路傍採集」(垣根、物干竿、ランプなど土地土地での採集)、「洋服の破れる個所」、「住居内での交通図」、「学生ハイカラ調べ」、「宿屋の室内・食事一切調べ」など、タイトルだけでも気になるものがたくさん。「カケ茶碗多数」なんて、ある食堂の茶飲み茶碗があまりにも欠けているものばかりなので、一週間通ってその店のほぼすべての茶碗の欠け具合を採集した調査報告だったりする。 スケッチや手書きの図表が多く楽しい。そして文章が堅苦しい論文調でなく、読み物のように書かれているのがまた魅力的。

細かく採集したデータから時代が見えてくる。・・・って、なんだかキャッチコピーみたいだけど、今センセイの研究がそういう学問の先駆であることに間違いはない。 「民俗学は過去を探り、考現学は未来を考える立場」 だという。 僕がいた学校は柳田国男に少し縁があって、高校の頃「民俗学入門」っていう選択授業があったのだけど(2年間受講したけど人気なかったなぁ。民家園とか行って面白かった)、「考現学入門」があったら迷わず受けてただろうなと思う。 たぶん路上観察というかトマソンというか「VOW!」な方面に傾いてただろうけど。’嗚呼80s。

 文庫では、いかんせん図表が小さいのが玉に瑕。 全集、図書館に置いてあるかなぁ。
by hey_leroy | 2015-02-06 08:45 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


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