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旅に出たいよ

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『 汽車旅の酒 』   吉田健一  (中公文庫 2015年)

 先月出たばかりの新刊文庫。1951~1975年に書かれた、吉田健一(英文学者、評論家、文筆家。1912~1977)による、汽車旅とそれにまつわる酒食に関する随筆。短編小説2篇を含む。既読作品少々。
 この集成は嬉しいな。金沢、新潟、酒田、京都などへ向かう車中や滞在先での御酒や御馳走。
 健啖家で知られる著者。まあ良く呑み、よく食べること。二日酔いの旅館での朝餉もビールとお酒で始まる。しかしちっとも品が悪くならないのは、若き日の洋行経験や、父親が吉田茂という環境と無関係ではないだろう。陶然と酔いの大海を漂うさまは、読んでいるこちらも気持ちよくなる。酒食のつれづれながら、旅とはなにか、人生の愉しみとはなにか、についての書ともいえる。
 独特のまわりくどく読みづらい文章もクセになる(毎回書いてるけど)。でも、今回ちょっとスッキリしてて物足りないなぁと思ってたら、新字新仮名遣いなのであった。残念。吉田健一の文章は旧字旧仮名遣いでこそ本来の魅力が伝わるのだ。 と、信じている。酒を呑みながらだと、繰り返し読まないと先に進めなかったりするのだけど、そこがまたイイのだ。

 季節はもう春。あぁ、旅に出たい。

 「その日は先ず新橋に近い文春クラブに行ってシェリー酒を買った。(中略)これを持って行けば新潟まで汽車の中で飲むのに丁度いいと思ったからである。それから新橋駅前の小川軒に行って酒の肴を折詰にしたのをもらって、上野駅に向った。壜詰のビールを飲み続けていると、しまいに口の中が変になって来る。又、日本酒はお燗することができないから、食堂車がない汽車に半日も乗って行くのにはシェリー酒が一番いいのである。」 (「酔旅」より。1956年)

 シェリー酒ひと瓶持って、旅に出たい。

 「ハシゴ酒というのは、やたらに新しい所ばかり探して歩くのが目的であってはならなくて、寧ろ逆に、一定の行動を繰り返す所に丁度、春の次に夏が来て、その後で秋になるのに似た、天体の運行を感じさせて悠久なるものがある。そこまで安心できる店を四、五軒、或は少くとも二、三軒見付けるのには時間が掛っても、それから先はただ場所を変えるだけで、天体と運行をともにすることになるのである。
 旅も同じことで、見知らない場所に行くのも楽しいものであり、その為に旅をするだと考えられなくもないが、それとは別に、旅を少しばかりハシゴ酒の範囲を広くしたものと見ることも許されて、これは移動するのに掛ける時間が長い上に、着いた場所で飲む時間も長くてこれに景色や人情の変化が伴うから、この楽みに浸りたければ、勝手を知った町から町へと、汽車もなるべく頭を悩まさない為に同じ時間のを選んで渡り歩くのに越したことはない。」
 (同じく「酔旅」より)

 ハシゴ酒に悠久を感じたことはないけれど。。。ちょっと詩情に心を寄せて呑んでみようかしらん。
 少しばかりハシゴを我慢すれば、近郊ぐらいへは旅に出れるんだけどなぁ。

・・・吉行淳之介に「街角の煙草屋までの旅」なんて随筆があったっけ。
by hey_leroy | 2015-03-09 23:33 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


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