金沢

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『金沢 酒宴』  吉田健一 (講談社文芸文庫 1990年)

いや~、がんばった。読み終えた自分をほめてあげたい。
吉田健一の小説は随筆とは一味ちがっていた。小説というか、この『金沢』という作品が特別なのかも。『東京の昔』とか読んだときはこれほど強烈な印象はなかった。

「吉田健一の、あの句読点の少ない、ひと息がすごく長くてくねくねした文章を読むたびに、ぼくはいつも酒を飲んで酔っぱらってしまったような気分になるのだけれど、『金沢』はアイラ島のモルトウイスキーとか石垣島の泡盛「白百合」のような酒に似ていた。最初のひと口は、まるでヨードチンキみたいだったり、運動会で転んで口に入った校庭の土みたいに違和感のある味。ところが、我慢して飲み続けていくうちに、どの瞬間からだったのかを覚えておくことはできないが、とにかく美味いと思っている自分にふと気づく。」

 先日読んだ岡本仁の『果てしのない本の話』(マガジンハウス)からの引用なのだけど、本当にそのとおりだ。序盤を読むのに相当苦戦した。難解な言葉が使われているわけではないのだけれど、一文が長く、そのなかに逆説的表現やら比喩やら話の飛躍やらが入り組んで、それが延々とつづく。ブログやSNSなどの短いセンテンスに慣れた頭には手ごわすぎる。

 北陸・金沢にひっそりと別邸を構えた主人公。そこを世話してくれた骨董屋を筆頭とした人々との、瀬戸物や書画、料理や酒、そして金沢の町と周辺にひろがる自然を通した深いやりとり。時間や空間の概念を超えて、ゆるやかに曖昧に物語は進行していく。進むにつれ、言葉は少しずつ読み手にスムーズに入ってくる。とはいえ、数行読んでは、ん?と読み直す事を繰り返すのにかわりはない。 速読、斜め読みはまったく通用しない本。ほろ酔い気分でも立ち向かえない本。わたくし、三日間ほど酒断ちして読みました、じっさい。そして、先に引用した岡本仁の言葉のように、吉田健一の文章を読むことで酒に酔ったような気分になる、というのも確かなことだった。彼が多くの随筆で書いてきた「美」とか「時間」とか「歴史」や「文化」についての考えがこの一冊にギュッと込められている印象。濃ゆい。

 あぁ、当分いいけど、またしばらくしたら再読したくなるんだろうな、きっと。
 吉田健一、中毒性があるんだ。
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by hey_leroy | 2015-06-08 07:13 | books | Comments(0)
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