『落語長屋の四季の味』 矢野誠一 (文春文庫 2002年)
演劇・演藝評論家、コラムニストの矢野誠一さんによる、
落語と食の歳時記風エッセイ。
国立劇場演藝場のパンフレットに1985~1992年まで連載された
『落語食譜』を季節ごとにまとめた直したもの。
一編につき、ひとつの食材と、それが登場するひとつの噺をとりあげる。
食材の故事来歴や、噺のあらすじ、それらにまつわる著者の軽妙なエピソード。
今は亡き噺家たちの思い出や、昭和のなつかしい食の風景。
著者が参加していた「東京やなぎ句会」の話もちょこちょこ出てきて楽しい。
今やメンバーは著者と柳家小三治と永井啓夫しか残っていない。
小沢昭一、桂米朝、加藤武、入船亭扇橋、永六輔、江國滋・・・
多くが故人となってしまった。
昭和初期や大正を生きた人たちがどんどんいなくなるという事実。
順番だから当たり前のことではあるけど、それでも驚きを隠せない。
いつの間にやら、である。
それはそれとして。
鰻に鯛に蕎麦に饅頭。。。落語にはいろいろな食べ物が登場するけど、
自分がこの本で気になったのは、はんぺん。
落語では志ん生がよく高座にかけた「替り目」に出てくる。
そのはんぺんについて、
京都の十月は「えびす講」で知られているのだが、二十日は恵美須神社にお詣りをして、おかずには「はんぺん」とねぎの炊いたものをつくる習慣がある。はんぺんは、ひとりにひとつずつ丸のままつけて小判に見たて、ねぎは斜めに切って笹に、つまりは「笹に小判」を形どったおめでたいおかずである。
と書かれている。なんだか気になる。食べてみたい。
ちなみに、矢野さんは東京っ子である。