読み散らかし日記

今月読んでたご本たち。

『神楽坂ホン書き旅館』(黒川鐘信・著 新潮文庫)
古き佳き趣きが残る街、神楽坂にある旅館「和可菜」。そこの常客は観光客やビジネスマンではなく、大部分は脚本家や映画監督に作家や漫画家たち。かれらは映画会社や出版社にカンヅメにされたり、この旅館の部屋でなければ創作ができない体質になっていたり。日本映画史を裏で支えたといっても良いくらい、たくさんの映画人たちがこの旅館を使ったのでした。今井正、内田吐夢、山田洋次、深作欣二、早坂暁、市川森一。作家では野坂昭如、色川武大、伊集院静、漫画家の滝田ゆう。夜通し「勉強」して昼間はボンヤリしている人種が過ごしやすい環境を整え、つねに気配りを怠らなかった女将さんをはじめとした精鋭の女性従業員たち。気配りしつつ、芯が通った客あしらい。作家達と同様に女将達にとってもそこは「戦場」なのでした。寺山修司らヌーベルバーグ派を追い出したエピソードとか、興味深い話がテンコ盛り。この本の著者は女将の甥。ちなみに女将の姉にしてこの旅館の初代オーナーだったのは女優の木暮実千代さん。あとがきで、編集者時代に野坂昭如担当でこの旅館に出入りしていた村松友視が「西の俵屋、東の和可菜」と評しているけれど(俵屋は日本を代表する京都の高級旅館)、もてなす意識の高さに通じるものがあったということか。興味ある方は村松氏の著書『俵屋の不思議』(幻冬舎文庫)も是非。あ、東京の宿という事では『山の上ホテル物語』(常盤新平・白水社)も面白いです。
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この『神楽坂ホン書き旅館』と同じ日に買った古本は他に2冊。既に触れた『伴淳三郎 道化の涙』と滝田ゆうの『昭和ベエゴマ奇譚』なんだけど、伴淳のシリアス演技代表作「飢餓海峡」の壮絶なシナリオ作りがここ和可菜で行われてたり、滝田ゆうもここを仕事場にしている時期があったりで、そのつながりっぷりに偶然とはいえびっくりした次第なり。なんにせよ自分のアンテナがそっち方面に向いているという事なのでしょう。


『犬が星見た ロシア旅行』(中公文庫)
再読。武田百合子さんの文章は、時折りというか、折に触れ読みたくなる。何度読んでも新鮮な愉しみがある。自分の感受性のバロメータとして機能してるのかも。「日日雑記」に続けて読みふける。この「犬が星見た」は昭和44年に夫の武田泰淳と評論家の竹内好と約1ヶ月をかけて旧ソ連を旅して回った時の日記。実際は3人旅ではなく、旅行会社の人やほかの日本人観光客も数名いる(その中の最高齢、関西の建設会社会長のZ老人がたまらなく良い味を出している!)。ロシアだろうが富士の山麓だろうが浅草だろうが、百合子さんの大きな目は、映るすべてのものを吸収しようとしているのだなぁ。人や世間の評判に惑わされず、自分の眼だけを信じて行動しているみたい。でも、自由奔放なようでいて、時折りのぞく弱気さだったり内向的な"影"の部分にどきっとしたりもするんだ。笑って、感心して、開いた口がふさがらなくなって、ちょっと切なくなる。
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さらに、前から買ってあってたまに拾い読みしてるムック本をペラペラ。
『武田百合子 天衣無縫の文章家 総特集』(河出書房新社)
いやあ、内容濃いんですわ。単行本未収録の文章や少女時代に書いた詩などのほか、色川武大、山口瞳、女優の加藤治子らが寄せた文章や武田百合子と吉行淳之介との対談など。で、この本の最初に出て来る随筆で、富士山麓に山荘を持つにあたり、夫の作家・泰淳氏から山にいる間は日記をつけるようにと言われて書くようになった話しの流れで、百合子さんなりの文章を書く上での約束事が披露されている。

・自分に似合わない言葉、分からない言葉はつかわない。(「○○的」とか)
・キライな言葉はつかわない。(流行の言葉とか。なかには好きなのもある。)
・美しいという言葉を安易に使わない。そのかわりなるべく見たこと思ったことを詳しく書く。

そうだったんだなぁ。そういわれると頷けるなぁ。出版する事を想定していなかった日記だけど、文章を書くことについて緊張感を持っていた人なんだろうなということは読んでいて何となく分かる。だとしても百合子さんの文章のインパクトにかわりはない。

あとは、古本屋で衝動買いした『浜田廣介童話集』。有名な「泣いた赤おに」とかも収められてるけど、「オツキサマのごさいなん」とか、カッパや街灯が主人公の話など、大人でも楽しめる、というか大人のために書いた?とも思える童話が全20篇。絵が少なくて文章中心なのも良かった。

今読んでるのは、井伏鱒二の『黒い雨』。ずいぶん前に読んだけど、武田百合子さんが「私の一冊」ということで挙げていたので、再読。 原爆のおそろしさを劇的な文章でなく淡々とした物事の積みかさねで描いている。まだ読んでる途中だけど、心が揺さぶられる。これと、村松友視の『豆腐のトバ口 鰹の面取り』(ランダムハウス講談社文庫)をかわるがわる読んでる。こちらは食味随筆。豆腐、そば、寿司、チーズ、醤油にカレーライスなど、食べ物に関するエッセイをまとめたもの。軽妙な文章で、でも一篇は短いながら読み応えがある内容。 交友も趣味も仕事も幅広い著者ならでの豊富な話題にひきこまれます。

こうしてみると、日本人作家づいてる。しかもエッセイが多い。しばしこの傾向は続きそう。
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by hey_leroy | 2010-11-22 22:23 | books | Comments(0)
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