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こんな本(借りて)読んだ。 芝木好子、神吉拓郎、小島政二郎

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『下町の空』 (講談社 1968年) 
『隅田川暮色』 (文藝春秋 1984年) ともに芝木好子著。

 川島雄三監督の1956年の映画「洲崎パラダイス 赤信号」が好きで、でも好きというわりには観たのは映画館で1度きりだったりする。また観たい。
 こないだ図書館に行ったとき、芝木好子による原作が読んでみたいと思い、何冊か目星をつけて奥の書庫から出してもらった。その中に「洲崎パラダイス」は含まれていなかったのだけど、せっかくなので借りて読んでみたらググッと惹きこまれた。
 浅草、本郷、築地、それからパリ。時代は戦前から戦後。失われゆく町や人への思い、心の機微を丁寧に描いている。『下町の空』は9つの作品を収めた短篇小説集。『隅田川暮色』は長編。
 登場するのが、組み紐の職人、日本舞踊家や三味線の師匠、呉服問屋などで、伝統工芸や芸能に近い設定が多い。パリに留学した画学生を描いたものもある。戦後、時代とともに商売の仕方も人のつながり方も変わってゆくなか、過去に恋愛で心に傷を負った女性のその後の暮らしに起こるさざなみ。
 美しい文章で、場面の情景が目に浮かぶ。伝統的な手仕事や色彩感覚の描写は素晴らしいけど、決してそれが出過ぎることなく、あくまで人の心模様の細やかな揺らぎを重くならずしっとり穏やかにえがいている。女性たちは静かだが心は強い。「洲崎パラダイス」は色街周辺の話だったけど、芝木さんの作品としてはかえって異色のテーマだったのかもしれない。
その「洲崎~」が収録されている本のタイトルも調べてわかったので、次回はそれを読もう。


『たべもの芳名録』  神吉拓郎 (新潮社 1984年)

 相変わらず食味随筆を借りている。
 神吉拓郎(1928~1994年)は作家、俳人、随筆家。直木賞作家でもあるが、小説は未読。僕がこの人の名前を知ってるのは、小沢昭一や柳家小三治らがやっている「東京やなぎ句会」に参加していたから。その方面のエッセイで、物静かだけどラグビーをやったりするスポーツマンでもある話などを読んでいた。この「たべもの芳名録」は昭和54~55年に小説新潮に連載していたのをまとめたもの。
 たべものをテーマにした全24のエッセイ。スッと入ってくる文章で、読みやすいけど実は中身は濃くて、繰り返し読んでも飽きない本。 だと思う。 手元に置いておきたい。 飲み食いについて書かれた本は、結構オシが強いというか、ひとクセふたクセあるなぁと思うのが多いけど(それが魅力だったりもする)、神吉氏はさらり淡々と書いていながら、佳い短編小説集を読んだときのような充実感がある。こうして一冊の本として読むのも良いけど、月に一度の小説雑誌の連載で、小説の間の清涼剤として楽しむのがふさわしい気もする。

 「ナマガキのノド越しの面白さは、なにか間違ったものを呑み込んでしまったのではないかという面白さである。あの、丸い、意外とコロンと充実した袋の部分が、のどちんこを軽く押して、おや、と軽い疑心を起させながら食道へ堕ちて行く。もう正体の確かめようがないかすかな不安と、呑んでしまったからには仕方がないという開き直った気持、この入り混った二つの気分が、カキの味を引き立たせてやまないのだ、というと、いささか大げさになるか。」

 生牡蠣、食べてないな~。 ノドがなる。


『食いしん坊 3 』  小島政二郎 (文化出版局 1973年)

 食味随筆というよりは私小説みたいにも思えてくる。
 話は脱線し放題、勝手気ままに書き連ねている。自身が面倒をみていた小冊子 「あまカラ」 に寄せた文章だから、心置きなく気の向くままに書けたんだろう。
 米の食事は体に悪いと知り合いの博士に言われてパン食を試みたり(でも近所に美味いパンがないと嘆く)、大好きだった和菓子をあまり食べなくなったかわりに、それまで見向きもしなかった香の物に興味をもったり、戦後次々と"株式会社化"してサービスが落ちる一方の旅館に愛想を尽かし、旅に出る際の腰が重くなったり。 大阪の寿司や京都の鳥肉、山鯨(猪)のことも。食べ物の話題からはずれて、当時亡くなったばかりの永井荷風の思い出。荷風は小説家ではなく抒情詩人であった、など。 昭和32~35年の文章が収められている。 正続全6巻からなる「食いしん坊」。 残るは3巻。 だんだん小島節から離れがたくなってきてる。
by hey_leroy | 2012-03-14 21:30 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


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