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銀幕の東京

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『 銀幕の東京 映画でよみがえる昭和 』 川本三郎  (1999年 中公新書)

銀座や築地が掘割や川で囲まれた「水の町」だったころ。
千住に大きなお化け煙突が立っていたころ。
あちこちを都電が走っていたころ。

自分がまったく知らない、オリンピック以前の東京。(オリンピックも知らないけど)
戦前から戦後、昭和前半に撮影された多くの映画では、往時の東京の様子を見ることができる。

銀座、浅草、上野、新橋、新宿、渋谷などの繁華街。
隅田川や荒川放水路、今は埋め立てられてしまった外堀川や築地川の水辺。
そこにかかっていた木造の橋。佃の渡し舟。

この本は、東京の町を意図的に収めようとしたと思われる映画を「東京物語」や「洲崎パラダイス」など作品ごとに、計13本取り上げた「東京の映画」篇と、登場人物の背景に映った街並みが印象的な作品を銀座、有楽町、上野など7つの町ごとに取り上げた「映画の東京」篇の二部で構成されている。

映画評論・文芸評論のほか、街歩きの随筆も多く手がける川本さんでなければ成し得ない仕事だと思う。知識やデータの羅列ではなくて、それぞれの映画やその原作、そして東京への愛情がたっぷり感じられる。で、実際に情報量はすごく豊富なのだけど、巧みな構成と、簡潔で叙情性がある文章でグイグイ読ませる。取り上げられた映画は片っ端から見たくなっちゃうし、すでに見たことがある映画は、もう一度見返したくなる。

こういう本はノスタルジーとセットに語られることが多いのだろうけど、自分にとっては未知の世界。それらは新鮮で、ときに斬新だ。仕事場の行き帰りなどで築地、銀座、新橋、隅田川沿いなどを日ごろから歩いているので、なおさら興味が湧く。見たことないのに、知った気になっちゃったりする。

東京は、関東大震災と東京大空襲という大きな災禍でそのたびにまっさらな状態になった。そして、オリンピックに向けた大規模な開発・整備で、三たび大変貌を遂げた都市だ。世界の大都市の中で100年前の建物が残っていないのはめずらしいという。

古い映画に出てくる昔の東京の、たとえば銀座を流れる川のシーンなんかは、自分にしてみたら「猿の惑星」のラストで砂浜に埋まってる自由の女神像をみるような・・・というのはちょっと大げさすぎるか。でも、けっこうな驚きなのだ、じっさい。


2011年には同じく中公新書から『銀幕の銀座』という続編的な作品も出た。雑誌『銀座百点』に連載された映画エッセイを基に、昭和11年の「東京ラプソディ」から 昭和42年の「二人の銀座」まで計36本が取り上げられている。興味がある方はこちらも。僕は、まずは「銀幕の東京」をおススメします。


それにしても、新書っていうのは玉石混交すさまじい。
1時間かそこらペラペラめくってポイっとしたくなる、厚みも内容もウッスイのもあれば、この2冊のように濃ゆくて読み応えがあるのもある。そこが面白いところでもあるのか。なるべく面白い本を読みたいけどねぇ。
by hey_leroy | 2012-11-24 22:34 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


by hey_leroy