肴と書いてアテと読む
2014年 07月 19日
『肴(あて)のある旅 神戸居酒屋巡回記』 中村よお (2006年 創元社)
神戸で生まれ育ち、今も暮らしている著者(1953年生まれ)による地元呑みにまつわる話。
古い店、新しい店、知られてる店、隠れ家的な店。
そこで出される肴。 そこを切り盛りする人たち。
いわゆる酒場ガイドとは異なる。
少年、青年期から現在まで、いろいろな場面で一人舐めたり、人と酌み交わした酒。
執筆業のほか、シンガーソングライターとしても活動し、70年代以降の関西フォーク~SSW界の生き字引でもある著者ならでのエピソードも楽しい。
そして、呑む側・呑ませる側の双方を大きく呑み込んでしまった1995年の阪神・淡路大震災。
大きなダメージを受けつつも店の再建に尽力する店主たちのバイタリティーにうたれる。
著者の個人的な体験や思い出が綴られているのだけど、独りよがりだったり押しが強かったりということがなく、淡々としていながら読んでいてグイっと引き込まれていく文章。
もちろん関西の酒場ならではの旨そうな肴(アテ)の記述にも惹かれる。
きずし、小いもの煮つけ、ふぐ皮ポン酢、関東煮(かんとだき)、焼いかなご、ハモの子の卵とじ、
どてやき、かぶらと菜っ葉の炊いたん、とろろ昆布がのった湯豆腐、串カツ、タコ煮・・・。
さらりと書かれた品名を眺めているだけで気分が豊かになってくるような。
いつかふらりと訪ねて、カウンターの隅っこでひっそりと、でもたっぷりと堪能してみたい。