人気ブログランキング | 話題のタグを見る

しゃざきっさ

しゃざきっさ_f0160346_12051081.jpg

『且座喫茶』 いしいしんじ(淡交社 2015年)

「且らく(しばらく)座して茶を喫せよ」という意味らしい。
且座喫茶。しゃざきっさ。

作家・いしいしんじがいざなう、茶道の魅力。
いしいさんのweb日記で「お茶の稽古に通う」という記述は以前よく見受けられた。
笹塚の先生のところに、浅草から2年、三崎から3年、松本から5年、京都から2年。
住むところは変われども、通い続けた。

「年数、それに物理的距離も、僕にとってはあまり意味をなさない。「縁」というのは量としてはかれるものでないし、それに、茶杓一杯の上にのる無限もあると、当たり前に信じることができているかどうか、先生はいつもそのことを、笑顔で問いかけていた気がする。社中の全員に。自分自身に。自分のなかに広がる「お茶」そのものに。」


お茶を通して大きなものを教えてくれた先生は5年ほど前に亡くなられた。
この本は、その後、京都や東京、福岡や長崎の壱岐などをたずねてお茶会の客となった際のことを綴ったもの。
お寺や教会や陶芸家宅のお茶室だったり、公園の芝生の上だったり、はたまた樹の上に組まれたツリーハウスのような庵だったり。
どんな場所でも、お茶をはさんで亭主と客が向かい合えば、そこは茶席となる。
お茶をいただきながら、常に先生の声が、表情が、あらわれてくる。


「茶室は、木と紙で囲われた四角い空間にみえて、まちがいなく「生きて」いる。縮み、ひろがる。明るみ、暗くなる。濃く、うすく、気配を転じ、そうしてその中心に、炉が、たぎる湯が、そうして茶碗にたたえられた一杯の濃茶がある。口にふくんだそれが腹の底からひろがっていくとき、僕は同時に、内外が反転し、茶室全体が自分のなかにひろがっていくのを感じている。」


いしいしんじの文章を読むと、自分や世界の内外が「反転」するという記述が多く出てくる。出てこない小説はないんじゃないか、というぐらい。それはテーマといえるのかはわからないけれど、大事なキーワードではあると思う。

「茶室は宇宙だ」なんて言葉も、いろんな人が書いてきたことだ。

いったい、何事だ。 興味が沸いてしまうではないか。


「お茶とは、ひとつの「物語」でもある。人間が生きていくこと自体の、とてつもなく大構えの比喩、といいかえてもよい。」


お茶を知らないことで、大事ななにかを持ち合わせずにいるような気がしてくる。


「客から見れば、茶碗は運行する天体になる。亭主から見れば、ホップする素粒子になる。」


・・・もう、なんだか、よくわからない。



by hey_leroy | 2016-01-29 09:14 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


by hey_leroy