小説家・庄野潤三(1921~2009年)の作品たち。
ずっと、夫婦の晩年を描いたシリーズを読み続けていたけど、
最終作までたどりついてしまったので、その前の小説に手を伸ばしはじめた。
まずは『ザボンの花』。
みすず書房の「大人の本棚」シリーズに入っていたのを図書館から借りてきた。
「私の年譜を見ると、昭和28年32歳の年に勤めていた朝日放送の東京支社へ転勤になった私は小さな2人の子供を連れて東京へ引っ越している。石神井公園の麦畑のそばの家に住むようになる。
その2年後に「プールサイド小景」により芥川賞を受賞した。このあと日本経済新聞からはじめての新聞小説を依頼されて書いたのが「ザボンの花」であった。
はじめての新聞小説で、どんなふうに書いていいか、分からない。文芸誌に書くのと同じように書いた。新聞ということを意識しないで、自分の好きなようにのびのびと書かせてもらった。(以下略)」
2006年のみすず書房版の発刊時に書かれた「あとがき」より。
夫婦と子供3人、犬1頭の家族が過ごす、ある年の春から夏の終わりまでの物語。
自分の家族の暮らしをモチーフにしながら、設定などは若干変えられている。
小学生の兄妹たちの視線、4歳の次男の視線、夫婦それぞれの視線。
実直で、のびやかで、読んでいて胸の中がふくらんでくるような小説。
単に穏やかで和やか、というのではない。
なんというか、毅然としたもの、凛としたものが作品の向こうから伝わってくるような。
平易な言葉、平易な文章。でも研ぎ澄まされている。
SNSやらネットニュースやらで見たくもないものをつい目にしてしまって、気持ちがささくれ立ってやさぐれちゃった時などには、沈静&浄化に庄野潤三を。なんてね。
思慮深く、稚拙でなく、他者に寛容でありたい。
あと、すでに読んでいた「貝がらと海の音」と「けい子ちゃんのゆかた」を古本屋で見つけたので、買う。どちらも文庫本で、前者は庄野ファンを公言する作家の江國香織さんが、後者は庄野の長女・夏子さんが解説を書いている。どちらも愛に満ちたすばらしい解説。じんわりとキテしまう。