昭和の中頃あたりまでの、酒や食に関する随筆が好きで、いろいろ読んでいた時期があった。獅子文六、小島政二郎、檀一雄、吉田健一、色川武大etc...池田弥三郎の本も何冊か古書店で求めて読んだ・・・つもりだったけど、未読のものが2冊、数年越しで残ってた。ということで、ようやっと。
ちなみに、池田弥三郎(1914~1982)は日本の国文学者・民俗学者。銀座の天ぷら屋の息子として生まれ、その後、折口信夫に師事。慶應義塾大学で長く教鞭をとった。東京っ子の矜持が文章のそこかしこに。
『 食前食後 』 池田弥三郎 (日本経済新聞社 1973年)
日本経済新聞に連載された文章をまとめたもの。
酒・食に関する随筆集。
大正~昭和のはじめごろの東京・銀座でのくらし、風俗。
以下、自分のための備忘メモ。
・正月のお節料理などの年中行事を考察した文章より。
わたしたちの食生活を考える、一番根本のところは何か、というと、それは、ふだんの生活と、特別な日とのたべものを、分けて考えるということだ。特別な日、これを「はれの日」という。ふだんの日、これを「けの日」という。
けの日のくらしの中で、特別なことをするのを「おごり」という。ぜいたく、という語に、ただちに置き換えることはできないし、また、「おごる平家は久しからず」のおごりとも違う。今でいうなら、けの日の中の、いささかのアクセントだといえばいい。この「おごり」は、特に有効だと思う。
「おごり」という考えは意識したことなかったな。
「おっ、きょうの食卓はずいぶんおごったね」とか聞いたことはあったけど。
自分の暮らしでの「ハレ」と「ケ」と「おごり」を今一度考えてみたい。
・銀座のホテルのバーで出されたというカクテル。
鳥のスープ(チキンコンソメ?)とウォッカを半々にしたものだそうだ。
「夏には氷をたっぷり入れるのも良いかもしれない」
と書いてあるので、ホットカクテルなのだろうか。
味の想像が、つきそうでつかない。
ジンでは酒が勝ってしまって美味くなさそうなのは、わかる。
・野球の早慶戦が熱かったころの話。酔った学生が、池田の実家の天ぷら屋の看板を壊した。
実行犯の友人であるところの学生が店の者に、
「酒の上のことだから勘弁してくれ」と謝ったというのを聞いた父親(店主)。
それまでは「しょうがないじゃないか」と聞き流していたのが、急に怒りだした。
「酒の上のこととはなんだ。酒のせいにするなんて、酒飲みの風上にもおけない。それじゃ、酒がかあいそうじゃないか」
酒呑みの処世訓なり。
憶えてなくても、いったこと、やったことには責任を持たなくてはいけない。
二日酔でも、ちゃんと仕事に精をださないといけない。
酒に「かあいそうな思い」をさせちゃァ、いけない。
『 味にしひがし 』 池田弥三郎・長谷川幸延 (読売新聞社 1975年)
こちらは週刊読売の連載の単行本化。
春夏秋冬の旬の味覚について、東と西、それぞれの言い分をぶつけ合うという企画。
同じお題について、せえの、でお互いが書いた文章を出す、みたいな。
東の池田弥三郎に対する西は、小説家・劇作家の長谷川幸延。
正月のお屠蘇からはじまり、歳末の年越しそばまで。
鱧とか鯨とか筍とか。。。どうにも東に分が悪いお題が多い。
じっさい、多くのものは西の方が、ねぇ・・・。
西は、正攻法で上方の洗練・優位を説く。
東は、すかしたり、かわしたりしつつ、すきあらばって感じ。
そば、すし、てんぷら、うなぎは東に軍配という雰囲気もあったけど、
今ではそれもどうだか。。。
週刊読売の編集者が、対立してエキサイトするように仕向けたというが、
まぁ、読んでて面白いようなところもあり、「まあまあ、そこまで・・・」
と思うところもあり。
趣向はおもしろい。
書かれた時代も昭和40年代の終わり。
そこもおもしろい。