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食べる私

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『 食べる私 』 平松洋子 (文藝春秋 2016年)


食や本についての随筆を多く著す平松さんの、29人の相手との対話集。

デーブ・スペクター、林家正蔵、ハルノ宵子、黒田征太郎、ヤン・ヨンヒ、伊藤比呂美。ギャル曽根、美木良介、土井善晴、辻芳樹、安藤優子、堀江貴文、大宮エリー、松井今朝子、ジェーン・スー、渡部健、光浦靖子、高橋尚子、吉田秀彦、高橋大輔、田部井淳子、山崎直子、畑正憲、小泉武夫、服部文祥、宇能鴻一郎、篠田桃紅、金子兜太、樹木希林。

濃ゆい人選。濃ゆい話。
平松さん、聞き上手、引き出し上手。
「食べてうまかったもの」の話の羅列ではない。
登山家、冒険家、アスリートにとっては食は命綱のようなものだし、
年配者にとって戦中戦後の食事情は人生・人生観に大きく影響している。
食に無関心な人もいれば、食を仕事にしている人もいる。
人それぞれの食に対する思い。


食べものについて語れば、人間の核心が見えてくる。
その理由はとても簡単だ。食べることは、生きること。生きとし生けるものは、食べる行為から逃れることはできない。何を食べるか、誰とどう食べてきたか、何を食べないか、食べてこなかったか。食について思考をめぐらせる言葉はみずからの生の証しである。そして紡ぎだされるのは、血沸き肉躍る自由と放浪の物語だ。(「食べる私 あとがきに代えて」 より)


宇能鴻一郎の謎に満ちた絢爛な暮らし。
金子兜太の、食物に対しては全部「通過儀礼」であり、無政府状態。無感覚というのじゃなく、食べ物を管理する政府が自分の中にない。という言葉。
樹木希林が言った、「食べることには可笑しさがありますよね。食べものは、そのときどき、状況ひとつでおいしくもなれば、逆もある。あのとき、あの人がこう言った、ああ言った、いろんな記憶がつきまとうからこそ、食べものは忘れられないものになるのだと思います」ということ。

平松さんの強い好奇心と幅広い知識、それを元に相手に的確な言葉を投げかける瞬発力。
あいかわらず繊細さと骨太さ、漢気までを感じさせてくれる。
笑って、考えさせられて、グッと感じ入る。
読み応えある一冊。



by hey_leroy | 2017-03-04 20:33 | books

たゆむあした、ゆるむゆうべ。カマクラ発、ユルマッタリな日々。読み返されない備忘録。


by hey_leroy