『浅草風土記』 久保田万太郎 (中公文庫 2017年)
久保田万太郎。小説家。劇作家。演出家。俳人。明治22年生まれ。昭和38年没。
僕の曾祖母と同じ年に生まれたんだなぁ。曾祖母は僕が社会人になった年に99歳で亡くなった。もっと話をたくさん聞いておくんだったなぁと思う。大正元年生まれの祖母、大正9年生まれの大叔父も長命だったから、いろいろ昔話を聞く機会はあったのに。
この本は、久保田万太郎が生まれ育った浅草の明治~大正~昭和の移り変わりを描いた本。いや、移り変わりというよりは、明治の浅草の鮮明な記憶の精緻な描写を元に、その後の風俗の変遷、震災や戦禍によって失われたものたちを記した本というべきか。
明治45年、学生時代に「三田文学」に寄稿した文章に始まり、大正半ばや昭和初期のものを主に収録、一部に晩年昭和30年の随筆も含まれる。実に長い年月にまたがった、浅草文集。浅草への賛美であり、鎮魂でもある。
しっとりと、こざっぱりと、つつましげな、昔の浅草。
久保田万太郎の文章も、そういう空気を孕んでいる。
こざっぱりと、というには少々湿っぽいところもあるけど、明治生まれが書く随筆にはそういうところがあるのかもと思ったり。ちょっとロマンティックだったりナルシスティックだったり耽美的であったり。
微に入り細に入りな浅草の描写は、自分にはさっぱりわからないけど、わからないなりにも何かを思わせたり、思い出させてくれたりする。そしてある種の感情をいだかせたりする。
あぁ、やっぱり大叔父に、下谷生まれで浅草神谷バーの大常連だった大叔父にもっと話を聞いとけばよかった。