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明治・大正・昭和の大阪の商家の生活

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『水の都』 庄野潤三 (河出文庫 1983年)


「必ずしも商家に限らないが、古い大阪の街なかの空気を吸って大きくなった人に会って、いろいろ話を聞いてみたらどうだろう」と思い立った「私」は、大阪に出かけ、まず、妻の従兄にあたる「悦郎さん」に会う。
明治・大正・昭和の三代にわたる大阪商家のさまざまな生活を、”水の都”の四季の推移を織りまぜつつ、自然な時の流れの中でみごとに描き出す長編小説。(文庫裏カバーの文章より)


庄野潤三の、おだやかで誠実で、芯のある文章が好きだ。自身の日々の暮らしをモチーフにした通称「晩年シリーズ」も良いけれど、その他の小説も、読めばどれも心にあたたかなものが残る。
この本では「私」が、大阪の船場や高麗橋で商いに携わってきた人たちのエピソードを、主に聞き書きのスタイルで綴っている。

丁稚奉公が社会の仕組みとして根付いていた時代。休日もすくなく、一日のなかでの自分の時間もほとんどない。そんな中、奉公人は店に誠心誠意仕え、旦那は奉公人を思いやる。厳しいしつけや指導も、一人前の商人に育て上げるため。今ではとても考えられない世界ではある。もちろんすべての奉公人が真面目なわけもなく、すべての旦那が好人物ということもないんだろう。

丁稚で入ったばかりのころの、朝起きてから夜眠るまで、そしてたまの休日の過ごし方。仕事のこと、食事のこと、仲間のこと。

シンドイ。でも、シンドイだけじゃない。そこの部分が、今のわれわれが失ったモノなのかもしれない。

今後、たまに読み返すことになるであろう一冊。



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by hey_leroy | 2018-02-10 22:53 | books | Comments(0)

源氏鶏太の人生案内


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『わたしの人生案内』 源氏鶏太 (中公文庫 2004年)

昭和30年代を中心に「ユーモア小説」「サラリーマン小説」で人気を博した作家・源氏鶏太による、半生記とかゆるやかな人生訓とか。

この人のことは小説ではなく映画の原作者として知った。森繁のサラリーマン~社長シリーズの元祖たる「三等重役」(大好き!)や「ラッキーさん」「ホープさん」「最高殊勲婦人」などなど。小林桂樹がヨカッタなぁ。
で、図書館で借りて原作などを読んだりもしていたのだけど、随筆系はあんまり見かけたことなくて。古本屋でみつけて即購入。

本人も文筆業と会社員の二足の草鞋を履いていた時期が20年以上あって、それがサラリーマン小説の題材になっていたことは言うまでもない。時は戦後の復興から高度経済成長期。仕事や生活に対する気構えも、今読めば、あぁ、そういう時代だったんだねぇ、という感じではあるけれど。

娘がOLになった親の心構えを記した項の最後の一文。

娘に門限を厳守させること。更に、男と二人だけで行動する場合、絶対に靴を脱ぐような場所に行ってはならぬといましめておくことである。多くの間違いは、靴を脱ぐことから始まっている。

お気をつけあそばせ。


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by hey_leroy | 2018-01-30 23:25 | books

井戸の水

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『へっぽこ先生 その他』 永井龍男 (講談社文芸文庫 1990年)


神田で生まれ育ち、鎌倉に長く暮らした永井龍男。
古本屋で見つけると、つい買ってしまう。
随筆も小説も、劇的ではないが、「確かな生活」が感じられる。


 井戸さらいと云って、二年に一度くらいか、五、六人の人夫がきて、底の底まで水をかい出し、大掃除をした。春先の行事であった。一人が井戸に入り、合図のかけ声共々他の人足が外で綱を引くと、水をいっぱいにした釣瓶が上がってくる。井戸端へそれを流すと、ふたたび釣瓶は井戸の中に返される。そんな悠長な作業を繰り返すうちに、何時間かすると井戸はからからになり、新しく湧き出す水が、きらきら底で光るのが見えるようになる。
 人夫のかけ声は威勢がよく、祭りのような賑わしさで、去年誰々が落としたどんぶりが上がってきたり、金魚が大きく育って掬い上げられたとか、子供たちも大はしゃぎした。井戸端をあふれた水が流れを作り、折りからの落花を遠くまで運ぶ風情を、私はいまだにおぼえている。すっかり井戸さらいが終わると、横丁の総代がお神酒を供え、柏手を打った。井戸端の周囲は、いつも清潔にして置かぬと、井戸神さまのたたりがあるとも云ったものだった。みんなの、大事な水であった。(「井戸の水」昭和54年 より抜粋)


何ということはないようでいて、情景が浮かぶ。
こういう文章を書いてみたいなぁ、と思う。
とても書けないなぁ、とすぐに思い直す。


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by hey_leroy | 2017-12-28 23:33 | books | Comments(0)

できたてホヤホヤ、はま太郎

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横浜・関内。
イセザキモールの入り口にあるレトロビル。
ここの上階に社を構える、ふたり出版社「星羊社」さん。
プチオープンオフィスにお邪魔しました。
おふたりと、居合わせたお客さんたちと談笑しつつ、
来年の「珠玉の酒肴カレンダー」そして
できたてホヤホヤの「はま太郎」14号 をあがなう。


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戦前戦後の横浜の働く人たちに活力と癒しを与えてきた市民酒場や、横浜開港以降の遊郭などの歓楽街の歴史研究、ステキで濃ゆい執筆陣による酒随筆etc...
「はま太郎」、今回も充実の内容です。


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青森に特化した「めご太郎」も好評発売中。
「観光より一歩先の旅」ってサブタイトルがいいな。
読んだらフラリと行きたくなっちゃうので、
(あまりフラリと行ける場所ではないが)
もう少し寝かせてからページを開こう。


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横浜ではレコード屋をのぞいたりもしたけど、結局地元に戻って、いつもの酒場で安定のナス焼。


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by hey_leroy | 2017-12-23 23:58 | books | Comments(0)

やややのはなし

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『やややのはなし』 吉行淳之介 (P+D BOOKS 小学館 2017年)


吉行淳之介(1924~1994)の晩年のエッセイ集。
自分のなかでヨシユキ氏は「ミスター・ダンディ」だ。
酒の話でも、人の話でも、猥談でも、他愛のない内容であっても、何を書いたってダンディでニヒル。
「ニヒル」なんて言葉、完全に死語だ。「ダンディ」もどうかと思う。
でもヨシユキ氏には「ニヒル」がそして「ダンディ」が似合う。それは、時代遅れとか云々を超越したことだ。
弱さや屈折を忍ばせつつ、刹那的でもあり。
こりゃモテるわな。

四角いバッグやライターを「矩形の鞄」「矩形のライター」と書くところにシビレタ。


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by hey_leroy | 2017-12-19 23:58 | books | Comments(0)

ペーパーバックでいいじゃないか


本屋で並んでて気にはなってた小学館の「P+D BOOKS 」。
昭和文学の名作をペーパーバックと電子書籍で同時発売・配信している。
澁澤龍彦、立原正秋、色川武大、吉行淳之介、辻邦夫、山口瞳あたりが気になるところ。あ、三遊亭円生の聞き書き本も何故かラインナップされてた。
そんななか、先月、深沢七郎も初配刊されたとのことで。
やっとこさ、初購入。

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『 人間滅亡の唄 』 深沢七郎 (小学館 P+D BOOKS 2017年)


唯一無二の作家、深沢七郎。
「楢山節考」が有名だけど、他の著作も濃ゆくて、不思議で、面白い。
天才なのか素人なのか。確信犯なのか天然無邪気なのか。
とらえどころがないようで、不意に痛烈なパンチが飛んでくる。
山梨・笛吹の風土が彼をつくったのか。
なんでこんなに魅力的なんだろう。

短いエッセイを主に収めた一冊。
小説、農業、ロックンロール。
世の中を、人を見る目は、直感的に深くて揺らぎがない。

ペーパーバックで肩ひじ張らずに読めるのがいい。
文庫より活字が大きいのもいい。
表紙デザインはどうかと思うけど、まあいい。


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by hey_leroy | 2017-12-14 23:59 | books | Comments(0)

うれしぃ

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『 箸 も て ば 』 石田千 (新講社 2017年)


石田千さんの新刊が出ていることに半年も気づかなかったとわ!
しかも、今回は食べたりのんだりを綴った本だったとわ!
なんたる不覚。。。
さっそく買ってきて、じっくり読もうと思いつつ、ついつい読み急ぐ。

デビュー作の『月と菓子パン』(2004年)からすべての単行本を読んできた。
エッセイだったり、小説だったり、紀行文だったり。
女性ならではのしっとりした筆の運びと思わせつつ、
小ざっぱりしてて、小気味よくて、でも小じゃれてなくて。

ここ数年の作品は、言葉の選び方、表現の仕方などで、試行錯誤というか、壁と向き合ってそれを超えていこうみたいな雰囲気を、読み手の方で勝手に感じ取ったりしてたんだけど(その緊張感も良かった)、この本は、肩ひじ張ってなくて、というか適度にゆるくて。
で、そんななか、時おりハッとする言葉や言い回しに出会えたりして。
あぁ、この感じ。うれしいなぁ。

石田さんの本を読んでいると、気持ちが昂っているときには鎮静剤のように落ち着かせてくれて、逆にダウナーというか、グダグダなときには、背筋が伸びるような気持ちにさせてくれる。
巷で良く聞く「丁寧なくらし」とかいうのとは、ちょっと違うと、これまた勝手に思うのだけど。

商店街の個人商店。銭湯。ねこ。居酒屋。乾物や豆。思い出の人。

あぁ。うれしいなぁ。

挿画は、牧野伊三夫さん。

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by hey_leroy | 2017-12-12 22:25 | books | Comments(0)

ひさびさの料理本

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『レシピとよぶほどのものもない わたしのごちそう365』 

 寿木けい (セブンアンドアイ出版 2017年)


ずいぶん久しぶりに料理の本を買った。

ツイッターで人気のアカウント「今日の140文字ごはん」。
日々の料理を綴った2000以上のツイートから選ばれたレシピ集。

レシピ本だけど、たのしい読み物でもあります。
まず、材料一覧とか、それぞれの分量表記が一切ない。
これが良い。ざっくりしてて、想像力がふくらむ。
ツイッターの文字数制限を逆手に取って大きな魅力になってる。
言葉選びのセンスや文章テクニックが伴っているからこそ。
そして、定番モノから味の想像がつかないオリジナルまで、幅広い料理たち。
素材の斬新な組みあわせもたくさん。

生の春菊とパルミジャーノの蕎麦とか、
しめ鯖と温野菜のサラダとか、
マッシュルームご飯、ねぎご飯、焼き豆腐のせご飯、、、

自分が「こんなもんかな?」と思った分量でつくるので、本来の味とはちがうものが出来上がるのだろうけど、それが前提として書かれているっていうのが楽しいではありませんか!

読んでばっかりで、何も作らなかったりして。
ありえる、ありえる。


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by hey_leroy | 2017-12-06 20:15 | books | Comments(0)

知らない世界をのぞき見る

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『仕事場訪問』 牧野伊三夫 (港の人 2017年)

美術同人誌「四月と十月」を主宰する画家、著述家etc...の牧野伊三夫さんの新しい本。鎌倉の出版社「港の人」が「四月と十月文庫」の一冊として出版した。

版画刷り師、アートディレクター、炭鉱の記録画家、月光荘画材店創業者、湯町窯陶芸家、その他の画家、アーティストたち。牧野さんが気になる人たちの仕事場やゆかりの場所へ足を運び、その足跡や創作活動を取材する。文章は2002年から2011年にかけて美術同人誌「四月と十月」に連載されたものに加筆修正。

どうかなぁ、面白いかなぁと思いながら読み始めたが、これがグイグイ引き込まれる。作品たちの何がよくて、何がよくないのか。表現するってどういうことなのか。仕事に向ける情熱。みぃんな、人それぞれ。有名にはなりたくないけど黙殺されるのもいやとか。聞き手も美術家なので、ところどころに自分の気持ちが入り込んでくるのがまた面白い。全体的にアツすぎない。でも沸沸と何かがたぎっているのを感じる。

門外漢でも十分たのしめる本。
何であれ、夢中になれる物事があるっていうのは、それだけで手放しに素晴らしい。いくつになっていたって、遅いことはない。
自分の物差しを持って、楽しんだり悩んだりしていけばいい。




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by hey_leroy | 2017-12-04 15:12 | books | Comments(0)

「ゆるい」こそリアルか

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『鳴るは風鈴 ~木山捷平ユーモア小説選』(講談社文芸文庫 2001年)

大船にある、古本が買える立ち呑み酒場で買った本。
ここは講談社学芸文庫が結構そろっているので、ちょいちょい買ってしまう。

木山捷平(1904~1968)は渋い作家だ。文章が渋いというよりは、立ち位置が渋いというか、あまり陽の目を見ていないというか。そんなところが気に入って、もちろん文章も好みなのだけど、古本屋で見つけるとつい手を伸ばす。

この本、ユーモア小説選とタイトルにはあるが、あからさまな笑いを狙った作品ではなく、なんとなく飄々としていて、あとからふと笑みがおとずれるような、そんな感じ。ユーモア小説という先入観はかえって邪魔になる。

坪内祐三の解説より引用。

(略)はっきり言って、木山捷平にはテーマがない。これは凄いことだ。木山捷平は、別段、文学を構築しようとしていない。逆に言えば、木山捷平にとって、表現行為そのものが文学なのだ。
 木山捷平の文章は、特にこの「ユーモア小説選」と副題のついた作品集『鳴るは風鈴』の文章は、先に名前をあげた作家たち(野口富士男、小沼丹、川崎長太郎、尾崎一雄)のそれに比べて、かなり、ゆるい。だが、愛読者には、文章のその、ゆるさがたまらない。文章はうまいのだが、心に少しも残らない作品が、特に最近、たくさんある。木山捷平の作品は、その逆だ。
(略)本来は純文学作家でありながら(中略)木山捷平は、軽く見られた。文芸誌でまともな追悼特集も組んでもらえなかった。幾種類となく刊行される文学全集のたぐいに、滅多なことでは収録されなかった。
 だが、それから三十数年ののち、彼の、ゆるく風通しの良い文章は、多くの、しかも新しい、読者を獲得し、講談社文芸文庫に収録される作品、この『鳴るは風鈴』で、九冊目となる。これは、この文庫で五本の指に入る人気作家だ。
 つまり彼は、今だに、いや今こそ、リアルな現代作家なのだ。

私小説、になるのだろうか。自身の体験を根っこに、淡々と細やかな描写。
自分は「下駄の腰掛」「川風」「最低」などが良かった。





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by hey_leroy | 2017-11-29 20:48 | books | Comments(0)